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正しすぎた人

2026年1月2日金曜日本棚

  年の瀬の書店というのは危険だ。財布のひもが緩むだけでなく、人生観まで連れて行かれる。そんな中、ふと手に取ったのが『正しすぎた人』という一冊。主役は、元ヤクルトスワローズ監督の 広岡達郎。現在93歳。数字だけでもう「ご意見番オーラ」が漂う。
  私たちの世代にとって広岡といえば、まず思い浮かぶのは『がんばれ!!タブチくん!!』に出てくる「ヒロオカ監督」。厳格、冷酷非道、笑わない。最近のSNSでは、そこに「老害」という便利で乱暴なレッテルまで貼られている。広岡関連の記事が流れてくると、コメント欄はだいたい炎上。「よくぞ言った!」は少数派で、「老害」の三文字が乱舞する光景が定番だ。
 ただし、広岡はバズる。歯に衣着せぬ物言いは、今の時代では希少資源だ。特にジャイアンツに向けられる舌鋒は鋭く、もはや切れ味のいい包丁レベルである。
  そんな広岡について、王貞治はこう語っている。「先輩としてはとても優しい。でもプロとしては非常に厳しい。正しいと思えば、その人のために耳の痛いことも言える人だ」と。褒め言葉なのに、背筋が伸びる。
  考えてみれば、いまはコンプライアンス全盛期。誤解を招かないように、炎上しないように、悪目立ちしないようにと、発言は角が取れ、丸く、無難になりがちだ。その中で、怖いものなど何もなさそうに、自分の信念一本で世の中をバッサリ斬っていく広岡の姿は、どこか痛快でもある。
  「政治に関わる人間も、本当はこうあるべきなのかもしれないなあ」そう思いつつ、現実の私は日々あれこれ悩み、配慮し、調整し、結局は角を丸めて活動している。正しすぎる人になるのは、やはり難しい。
ちなみにこの本、意外なオチがある。娘さんの証言によれば、家での広岡は世間のイメージとはまるで違い、話題豊富でユーモアあふれる楽しいお父さんなのだという。
  どうやら「正しすぎた人」は、外では怖い上司、家では話の止まらないおしゃべり好きなお父さんだったようだ。人間、ラベルだけでは測れない。年末の書店は、そんな当たり前だけど忘れがちなことまで、そっと教えてくれる場所だった。
 

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